京都・裏寺 メシと酒「百練」

第310回 ショッキング・ブルー編

なぜかピクピク引きつけられました。

なんともいえないバンドだったショッキング・ブルー。日本でも「ヴィーナス」や「悲しき鉄道員」や「マイティ・ジョー」など大ヒットした曲が何曲もありましたが中学生だった僕は「アラスカ・カントリー」という歌になぜかピクピク引きつけられました。魅力的な歌です。

というわけで今夜の裏寺百練聞いて語る祭はショッキング・ブルー。生涯好きな歌ベストの話でもしながらちょっとやりましょう。カマンベール、2016/3/3

生涯好きな歌ベスト第3位。

 酒場に来ている。シーナ&ロケッツの名曲「ピンナップ・ベイビー・ブルース」がかかっている。駅に貼られたポスターの中の女に恋するという名曲だ。作詞は糸井重里だったと思う。

 俺は歌に引き込まれている。昔、好きだった歌だ。シーナがそれを歌っていた時代、その時に俺が過ごしていたあの場所やその顔ぶれが浮かぶようで浮かばない。目の前のグラスの酒の濃度は一定のはずなのに減るスピードが違う。この曲はウイスキーしか似合わない。それでもシーナが「ピンナップベイベ ピンナップベイベ」と歌っている。生涯好きな歌ベスト第7位にしておこう。

 俺は58歳。あの頃から40年近く経った。あの頃は太陽が今よりもギラギラしていた気がする。どこを思い出しても汗があったような気がする。雑誌の中のグラビアも野球選手もロックなバンドや歌手や映画の中の俳優も作家も、街で見かける男も女も汗があったような気がする。実際はそんなはずないとは思うがなぜ今俺はあの頃に汗を感じているのか。

 そしてあの頃とはどこのいつのことを指しているのか。そこには誰がいたのか。夏目雅子なのか山口百恵なのか、南佳孝なのか矢沢永吉なのか、ジェームス・ブラウンの名盤「HOT」なのかジョン・トラボルタなのかボブ・マーリーなのかウェスト・ロード・ブルース・バンドなのかザ・ノーコメンツなのか、714号の王貞治なのか、江川からホームランを打ったラインバックなのか。

 そうこう考えているうちにこの店のスピーカーからクレイジー剣バンドの最高の名曲「路面電車」が聞こえてきた。生涯好きな歌ベスト第10位に入るのでついついサビの部分の「ガタンゴトンガタンゴトン路面電車はゆくよー」で歌ってしまう。

 ちなみに生涯好きな歌ベスト第3位はダリダとアラン・ドロンの「あまい囁き」だ。少し前にFM大阪の大西ユカリさんがやっている番組に呼ばれた時に、「バッキーさんの好きな曲を一曲かけますのでどうぞ」といわれて即答したのが「パローレ パローレ パローレ」のこの歌だった。さすがに音楽の造詣が深い大西ユカリさんだけあって「あんたらしいわ」と喜んでいた。俺も調子に乗って「アランドロンのボソボソしゃべりやるさかい大西さんパローレ連呼しいや」と言って曲がオンエアされているあいだスタジオでボソボソ言うていた。

 そうこうしているうちにスピーカーからなんと!山口百恵の「イミテーション・ゴールド」が聞こえてきた。俺は思わず水割りをお代わりし「あかん、あかんて」の呪文を2階唱えた。「西日の強い部屋の片隅 彼が冷蔵庫バタンと閉じる」のイミテーション・ゴールドであり、「飲み干したけど今年のひとよ」のイミテーション・ゴールドだ。そういえば山口百恵と俺は同い年だ。誕生日も近かったはずだ。あの頃、「GORO」という雑誌の篠山紀信の激写で出てきた山口百恵の黒い水着姿は強烈だった。今でもはっきりとあの数ページを覚えている。思えば、あの写真も雑誌にも汗を感じる。

 今ここで表現している汗という正体はいったい何なんだろう。昭和でもないし欲望でもないし未成熟でもない。懸命でもないしどちらかといえば青さより赤さかもしれないし、熱は高いような気もするし匂いもすると思う。そして汗は乾いていない。

 スナックには汗や唾もあるがカラオケボックスにはそれらがあるのか。甲子園には汗があるが東京ドームにはそれがあるのか。専門店にはそれがあるがコンビニにはそれがない。けれどもコンビニは便利なので汗判定を受けなくてもいいかもしれない。いったい俺は何がいいたいのだ。

 こんな時にはまたあの歌が出る。ここでも何度も書いたが岡林信康の「つばめ」という歌だ。「もう随分長い間 見ることもないが 遠い日の・・」という名曲だ。生涯好きな歌ベスト第5位だ。

 そうこうしているうちにまたグラスが空になって泣いている。世話が焼けるぜまったく。果たして歌というものがなくても俺は街にいたのかどうか。ありがとう、歌達よ。

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