京都・裏寺 メシと酒「百練」

第309回 T-レックス編

寒い裏寺の夜はT-レックス。

「君はいけない女 だけどとても愛らしい 真っ黒な服を着て 決して振り返らない」ゲット・イット・オンの歌い出しはこんな感じの歌詞だそうです。かっこいいバンドでした。マーク・ボランは30才であの世に行ったそうなので活躍は一瞬だったようですがずっと我々の中に残っています。

昨日から京都もグッと寒いです。昨日は雪が舞っていました。3月になれば雪の絡む歌がまた聞こえてくるのでしょう。今夜も寒いのでお酒を熱い目にしましょうか。氷の入ったウイスキーにしましょうか。寒い裏寺の夜はT-レックス。カマンベール。2016/2/25

追伸、少し前に、「スマホと森繁久弥」というコラムを書きました。

「スマホと森繁久弥」

 森繁の社長シリーズとかをBSなどでたまに見ていると、ウームと唸らされる場面がよくある。まずは役員会議だ。会社の事業の進捗状況や売上などの数字の報告のあいまに役員の一人が「そういえば社長」というセリフのあとで必ず「ゆうべはあれからどうのこうの」という社長がらみのネタ振りが入る。すると森繁久弥が演じる社長が少し慌てて「君、それはいいから次の議題に入りたまえ」という流れになっていく。素晴らしい役員会だと思う。

 また社長室の中での場面では、秘書課の男性社員に出張や会食の件を硬い顔をして「早く手配したまえ」と言いながら照れを隠すように「誤解を招くから家内には内緒だよ」という言葉も出てきて秘書課の男性が少しニヤッとする。あー実に素敵な社長室だ。

 専務か常務の家に若手の社員が毎朝迎えに来るという場面があり、専務とおばあさんと奥様と娘さんが朝ごはんを食べていると、奥様から「あなたもお食べになって」という声をかけられることになりその若手の社員に年頃の娘さんがお茶碗にごはんを山盛りよそう場面も、わけわからないが妙に眩しい。そういえばその朝ごはんをパクパク食べている若い社員を演じていたのは関口宏だった

 また森繁演じる社長が大阪に出張し、予定を早めに繰り上げて京都に行って、馴染みの浮気相手とゆっくり昼下がりの酒を飲む場面がなんともゆるくてゴキゲンで、思わず「うーん。そらたまらんわ」と俺も呟いてしまった。

 振り向けば俺らも随分乾いてしまったようだ。水気がないと生きられない動物なのになぜ乾こう乾こうとするのだろう。乾いている方が計算式がシンプルなので時間や場所や気持ちまで管理しやすくなるという考えはわかるがそれを追求した結果、こんなに息苦しい世界になった。湿っていないと誤差が出たらすぐ切れてしまうのにきびしい戦いを強いられていると思う。

 湿気のある京都で水や水気のものを触りながら仕事をして暮らしてきた俺でさえ、ふとが気づくとこの二十年近く身内以外の家で「おー、これからごはんやしお前も食べていかへんか」的に誘われてごはんを食べたことがない。
いついつに誰々と寄せてもらう的なことはあっても「ついでやし食べていきよし」はお互いになくなった気がする。だいたい毎日同じ時間に始まる四人以上の決まったメンバーでの食卓が俺の廻りにはなくなっている。ほんとにさびしい話だと思う。

 盆や正月にかろうじて親戚などが集まると数年前までは俺がトリコロールなコックコートを着たりハチマキをして寿司屋のヒデさんになったり、いくつものコーナーがある流しそうめんモナコグランプリをやったりして日常にない状況を作ろうとしていたが、この頃は何をやってもしばらくすると子供達が機械相手にゲームをし始める。これはあかんとそれらを取り上げてテレビも消したりしていたが、あまりにも抵抗が激しく、女の子は泣いたりし俺に近寄らなくなった。しかも大人達までもが俺を非難し始めたので情けない話だけれど俺は3年前に降参しゲームに夢中の子供達を見て見ぬふりをして酒を飲んでいる。意気地のない大人になったもんだ。

 そういう俺も電車や新幹線に乗ればタブレットを出してずっと画面を触っているし、家でも朝飯を食いながら触っていることもある。バーや居酒屋でもここでこんなんしてるとこを見られたらカッコ悪いなと思いながらひとりの時はこそこそ見たりしている。

 いったい俺は何を求めて、何に怯えているんだろう。親戚の中の年長の俺がこうなんだから子供達も久しぶりの親戚の集いよりいつものゲームになってしまうんだろう。濡れていたものを乾かせたのは実は俺達だった。森繁久弥が泣いている。

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