京都・裏寺 メシと酒「百練」

第292回 吉田拓郎編

裏寺もそろそろ湯気が恋しい感じになってきました。

先週はご案内が出来ずさびしかったです。もう秋になりました。ということで落陽です。高円寺です。旅の宿。たどり着いたらいつも雨降りです。裏寺もそろそろ湯気が恋しい感じになってきました。タラやカキが届き始めると街にチマチマ感が出てきます。少し前にチマチマについて書きました。カマンベールのあとに読んでみてください。カマンベール。

チマチマを書くことがライフワーク。

先日、居酒屋でひとり飲んでいると隣のお客さんが「あ、バッキーさんちゃいますか」と声をかけてくれたのでチョット話していると、私が書いていることは首尾一貫して実にせこくてその加減がとてもいいのだと褒めてくれたが、なんだかなあと思った。

私が二十代の頃から憧れていたロックな師匠にも「井上君はあんなチマチマしたことよりもっと書かなあかんことがあるやろ」と昔から何度もいわれているし、初対面の私に裏寺の居酒屋の物件を指さして「君はここで店をやりなさい。やればいい。やるべきだ」といきなり逆指名宣言したパリの大学で教鞭をとられていた人生の師匠にも「食事や酒がどうのこうのばかりじゃつまらないだろ」と言われ続けてきたが、私は街や店でのチマチマこそライフワークだと宣言したい。

ということで今月も街や店でのチマチマで申し訳ありません。

基本的に私はせこいのですが物量と対価のパフォーマンスを求めているのではありません。

例えば居酒屋で日本酒を注文するとコップから酒を溢れさせ受け皿にためるという注ぎ方よりもコップギリギリまでの方が飲める量は少ないがそっちを好むし、バーで飲むウイスキーでも新しい氷が入った新しい酒よりも飲んだあとのグラスに酒を注いでもらうのを好むのは少しでも早く次の酒が飲めるから。せこいことにはいろいろ理由があるのです。

ラーメン屋に行ってネギ多い目を注文するのは風邪の予防のためではなく焼豚でネギとヤンニンジャンを巻いて白ごはんを食べるからだし、鮎の塩焼きを食べる時の蓼酢を多い目にもらうのは私は蓼酢をすぐに飲んでしまうので初めに多い目にもらっているだけなのだ。

そのせこい我々が最もググッとくる瞬間は、居酒屋や食堂で普段無口な主人が仕込みをされている料理や炊かれているものがカウンターの向こうから「今日入ったもんやねん」とか「味見しといて」とおちょこのような小皿でシュッと出てきた時。シアワセ度の針が大きく振れる。その反面、店が混んできて新規のお客さんが来ると、出る気はなかったのにまだ残っている酒をあわてて飲んで勘定してといってしまうのもせこいからこそ出来ることなんだと思う。

せこいからこそ街や店の機微がおもしろいのだと思う。さあ今日も薄造りで一合飲んでそのあとネギとポン酢と一味だけで一合飲もう。

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